マルチンのマルチン的映画考察

気に入った映画を深く掘り下げて考察していきます。

「幸せなひとりぼっち」 切ないおっさん映画の秀作

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 ヘイ。スウェーデン語でこんにちは。ということで、「ゴッドファーザー」をひたすら連発するのもどうかという意見をいただいたので、今日は最近グッときた映画を紹介します。それが「幸せなひとりぼっち」。2015年製作のスウェーデン映画です。監督と脚本はハンネス・ホルム。原作はフレドリック・バックマンの同名小説。

 

 私は常々、自分の前世はおっさんだったのではないかと思っているのですが、その根拠は”切ないおっさんに共感してしまう”という点にあります。この「幸せなひとりぼっち」の主人公”オーヴェ”がまさにドストライク。激しく感情移入してしまい、気がつけばひとり泣き。感動とか、悲しいとか、そういうのではなく、人の話を聞いて、思わずもらい泣きしてしまうような感覚です。

 

 オーヴェは幼少期に母親と死別し、まじめで正直者の父親に育てられました。そんな父親も、オーヴェが16歳の時に亡くなってしまいます。オーヴェは父親が勤務していた鉄道局に就職し、清掃係として働き始めます。ひたすらまじめに働き、楽しみといえば車の修理くらいだったオーヴェは、美人で明るくて心優しいソーニャと出会い、恋をします。

 

 このソーニャという女性が実に美しい。2人が初めてレストランでデートした日。オーヴェは貧乏だったので、スープしか頼みません。ソーニャは当然、理由を聞きます。オーヴェは正直に”自分は電車の清掃係で、家も丸焼けになってお金がないので、君が好きなものを注文できるように食事はしてきた”と告白し、嫌われただろうと思い込んで席を立ちます。さあ、こんな時あなたならどうします?

 

 ソーニャははいきなりオーヴェを捕まえ、公衆の面前で自分から熱烈なキスをするんですね。言葉は一切ありませんが、ソーニャがオーヴェの誠実さに感動し、”私はそんなあなたが大好きよ!”と、心の中で叫んでるのがビシビシと伝わってきます。素晴らしいラブシーンです。

 

 59歳になったオーヴェは、最愛のソーニャに先立たれ、会社をリストラされ、人生のどん底にいます。もともと偏屈気味だった性格に拍車がかかり、とにかく何もかもが腹立たしい。楽しいことなんてひとつもないし、早くソーニャのところに逝きたくて、何度も自殺を試みるのですが、いろいろあってなかなか死ねません。詳しい内容は、ネタバレになるので伏せておきます。

 

 思わず笑い泣きをしてしまったのが、ソーニャに赤ちゃんができたことを告白されるシーンです。ソーニャに”あなたはパパになるのよ”と言われたオーヴェは、”でかしたぞ、ソーニャ!”なんてゲスいことを言わず、慌てた様子で”車を買い換えなきゃ”と言い出します。ソーニャが笑って、”車よりゆりかごが先でしょう”と言うと、オーヴェは大まじめな顔でうなずき、すぐにゆりかごを作り始めるんですね。2人でチークダンスを踊っていたのに。

 

 ここ、笑いながらボロ泣きしました。”誠実に愛するってそういうことなんだよなあ”としみじみ思いました。”君を一生幸せにするよ”なんてオーヴェは多分言っていませんが、ソーニャはものすごく愛されていることを肌で感じているので、いつも幸せそうです。そこ、ものすごく大事。愛情って、言葉や物で表現できるものではなく、嫌でも滲み出てくるもんなんですよね。だから、嘘は通用しません。親しくなればなるほど、愛されているのかいないのかは、はっきりわかるものです。

 

 後は、ずっと毛嫌いしていた野良猫を家で飼う羽目になったオーヴェが、いつの間にかその猫に愛情を感じ、何気に一緒のベッドで寝ているシーンもグッときましたね。オーヴェは不器用なおっさんなので、”ヨチヨチ、可愛い猫ちゃん”なんて絶対言いません。猫に名前すらつけません。でも、一度愛すると彼はとことん誠実で、まじめに愛情を注ぎます。そのうえで、例え相手が猫であっても、互いのプライベートには干渉しないような、エチケットを守っています。私は相手が人間でも動物でも、支配するのもされるのも大嫌いなので、オーヴェ大絶賛。

 

 オーヴェを演じたロルフ・ラスゴードも、ソーニャを演じたイーダ・エングヴォルも、とても魅力のある役者さんでした。感動の押し売り的な下品な作品ではなく、淡々としているのになんか知らんけど泣けてくるような秀作です。

 

 それにしても、妻に先立たれた切ないおっさんの映画はパッと数本すぐに思い浮かぶのに、夫に先立たれた切ない妻の映画が全然浮かんでこないのはなぜだろうか。ちなみに、ハンネル・ホルム監督が参考にした映画は、「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」(85)、「フォレスト・ガンプ」(94)、「アバウト・シュミット」(02)、「恋愛小説家」(97)だそうです。私は”切ないおっさん映画”として、後半の2本もおすすめします。どちらも主演は、ジャック・ニコルソンです。ちょっとニヤつきますね。